技術

電圧プロファイルにおける微分容量(dQ/dV)曲線の解析と解釈

リリース時間: 2025年07月09日

1. はじめに


微分容量曲線(dQ/dV)は、電池の充放電中における電圧と電荷量の関係を分析するために用いられます。これは、電荷に対する電圧の微分値(dQ/dV)を示すことで、電池内部で発生する相変化や反応速度論を迅速に特定することが可能です。


前回の講義「電池の微分容量(dQ/dV)曲線の原理、事例解析および試験」においては、微分容量曲線の基本原理、試験方法、パラメータ設定、ならびにデータ取得時の重要な注意点について解説しました。


本記事では、主に電池の微分容量曲線およびその関連データの解析と解釈に焦点を当てております。



2. 定電流試験のパラメータ設定

2.1 試験装置


「電池の電圧微分容量(dQ/dV)曲線の試験原理と事例解析」の章では、電圧微分容量dQ/dVの原理および計算方法について説明しました。本章では引き続き、新威社製の多チャンネル電池試験装置を使用し、定電流充放電試験(図1参照)を行います。これにより得られた定電流充放電曲線をソフトウェアにより処理し、dQ/dV曲線を導出して分析を行います。


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図1.新威電池試験システム


dQ/dV曲線の説明:dQ/dV曲線においては、電池の酸化還元反応が完全に進行することによって、酸化還元ピークが現れます。さらに、このプロセスでは定電流が使用されているため、拡散速度は一定に保たれます。その結果、測定される電位変化は比較的正確であり、電池内部の酸化還元反応を非破壊で分析することが可能となります。


2.2 パラメータ設定

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図2.各種試験電流密度の設定

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図3.時間および電圧の記録パラメータ設定


上記の試験パラメータはあくまで参考値です。実際の試験パラメータは、材料の特性および電池の組立方法に基づいて決定する必要があります。


2.3 定電流充放電データの取得


上記のようにパラメータを設定した後、試験が完了したら、該当するサイクル番号を選択します(図4参照)。

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図4.サイクル範囲の選択


図4の緑色の枠内では、サイクル範囲を直接入力することが可能です。Enterキーを押すことで、その範囲が選択されます。また、赤色の枠をダブルクリックすることでも、範囲の入力が可能です。これにより、図5に示すような定電流充放電曲線が生成されます。


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図5.異なる電流密度における充放電曲線



3. dQ/dV曲線の取得と分析


3.1 dQ/dV曲線の取得


ソフトウェアを開き、対象となるサイクル番号を選択して定電流充放電曲線を取得します。次に、「電池の電圧微分容量(dQ/dV)曲線の試験原理と事例解析」の章で説明した手順に従い、dQ/dV曲線を作図します(図6参照)。


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図6.(a) dQ/dV曲線および (b) 充放電プロファイル


3.2 dQ/dV曲線の分析

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図7.(a) 0.1 A g⁻¹の電流密度における初回サイクルのdQ/dV曲線、(b) 充放電プロファイル


図7aからは、0.2〜1.2 Vの電圧範囲において複数の酸化還元ピークが確認されており、材料が優れた電気化学的活性を示していることが分かります。この現象は、同電圧範囲(0.2〜1.2 V)での充放電曲線とも一致しています。さらに、1.4〜1.6 Vの過程では鋭いピークが現れており、急速な酸化還元反応が起こっていることを示しています。このピークの強度が高いことから、材料が強い電気化学的活性を有していると判断されます。既報の文献によれば、この過程はバナジウム系材料における不可逆的な相転移によるものであるとされています。この現象は、図6bに示される充放電曲線(1.4〜1.6 V)において観察される長いプラトーによっても裏付けられています。


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図8.(a) 0.1 A g⁻¹の電流密度における第2~5サイクルのdQ/dV曲線、(b) 充放電プロファイル


図8に示すように、材料は第1サイクルとは異なるdQ/dV曲線および充放電曲線を示しており、これは初回充放電過程における不可逆的な相転移のさらなる証拠となっています。放電過程では、0.96 V、0.90 V、および0.65 Vに三つの還元ピークが現れ、多段階のZn²⁺/H⁺のインターカレーション過程を示しています。この多段階反応は多電子酸化還元反応に好適であり、高容量化を可能にします。特に0.65 Vのピークは他の二つに比べて強度が高く鋭いため、この電位での酸化還元反応速度が速いことが示唆されます。充電過程では、0.71 V、0.97 V、および1.07 Vに三つの酸化ピークが現れ、多段階のZn²⁺/H⁺のデインターカレーション過程に対応しています。さらに、ピークの形状および位置はサイクルを重ねるごとに徐々に一致し、材料の安定性および電気化学的可逆性の向上を示しています。

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図9.(a) 20 A g⁻¹の電流密度における第1~5サイクルのdQ/dV曲線、(b) 充放電プロファイル


図9に示すように、電流密度が20 A g⁻¹に増加すると、極化の増加に伴いピークの形状に大きな変化が現れます。酸化還元ピークの位置が顕著にシフトし、一部のピークは消失することもあります。サイクルが進むにつれて曲線は徐々に重なり合い、ピークの強度も増加します。これは、高電流密度においても材料が良好な亜鉛の蓄積に対する電気化学的可逆性と、迅速な酸化還元反応速度を維持していることを示しています。


3.3 サイクル中のdQ/dV曲線の分析

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図10.20 A g⁻¹の電流密度における選択された (a) 充放電曲線および (b) dQ/dV曲線


図10aに示すように、サイクルを重ねるごとに材料の比容量が減少し、極化電圧が上昇しており、構造安定性の低下を示しています。このデータを処理すると、図10bに示すdQ/dV曲線が得られます。この曲線は、サイクルを通じてピーク強度が徐々に減少し、酸化還元ピークの位置が大きく変化していることを示しており、電極材料の活性および構造安定性の低下を示唆しています。さらに、ピークの広がりはサイクルによる材料内部のイオン拡散速度の低下を示しており、充放電曲線で観察された結果をさらに裏付けています。


3.4 dQ/dV曲線分析の重要ポイント


1.電圧プラトー:dQ/dV曲線の水平領域は、電池の充放電過程における電圧プラトーに対応し、その電圧区間内で反応電位の変化がほとんどないことを示しています。


2.酸化還元ピーク:曲線上のピークは通常、電池材料の酸化還元反応を表しています。ピークの位置は、電気化学反応が起こる特定の電位に対応します。


3.ピーク幅:ピークの幅は電気化学反応の速度論を反映しています。狭いピークは通常、反応速度が速いことを示し、広いピークはイオン拡散や電子移動が遅いことを示唆します。


4.ピーク面積:ピーク下の面積は反応に関与する材料の量に関連し、特定の電位範囲内での容量変化の推定に用いられます。


5.ピークの対称性:対称的なピーク形状は、可逆的な電気化学反応を示すことが多く、非対称なピークは不可逆性や複数の反応ステップの存在を示唆する場合があります。


6.ピークシフト:充放電ピーク間の水平距離は電池の極化の程度を反映しており、距離が大きいほど極化が強いことを意味します。


7.複数ピーク:複数のピークが存在する場合、電池材料内で複数の電気化学反応が起きているか、異なる活性部位が存在している可能性があります。


8.ピークの変化:異なるサイクル数や条件でのdQ/dV曲線を比較することで、容量劣化や材料の構造変化など電池性能の変化を観察できます。


9.バックグラウンド電流:曲線のベースラインは理想的には平坦であるべきで、ベースラインからの逸脱は寄生反応や電池内部の他の電流流れを示す可能性があります。


10.曲線の再現性:dQ/dV曲線の再現性は、電池の信頼性や一貫性の評価に用いられます。


11.CV曲線との相関:dQ/dV曲線のピークは一般にサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線のピークに対応していますが、特にピーク近傍の微細な変化について、より詳細な情報を提供することができます。



4. まとめ

dQ/dVは、電池の充放電中における電圧と容量変化の関係を解析するためのグラフ表現です。この曲線は、電池の充放電挙動に関する詳細な情報を提供し、研究者が電気化学反応の速度論、材料の可逆性、および電池の長期安定性についてより深く理解することを可能にします。



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