技術

電池におけるイオン拡散係数のGITT試験に関する原理と事例分析

リリース時間: 2025年06月09日

1. はじめに


電極材料内における活性イオンの拡散は、非常に重要な反応過程です。このバルク拡散は一般的に速度が遅く、全体の反応速度を制限する律速段階となることが多く、電池性能を左右する大きな要因となります。イオン拡散係数が高いほど、材料内におけるイオンの輸送速度が速くなり、それに伴って高電流での充放電能力や電力密度、さらには電極のレート性能が向上します。そのため、拡散過程における拡散係数の変化を研究することは、材料の電気化学特性を改良・最適化する上で不可欠です。

イオン拡散係数の研究においては、フィックの第一法則および第二法則が理論的な基盤として用いられます。電極に対して微小な直流(DC)や交流(AC)、または電圧信号を印加することで、対応する電気化学的な応答信号を取得し、拡散過程を線形化して解析することが可能です。現在、イオン拡散係数を測定する代表的な技術には、以下の方法があります。


1.定電流間欠滴定法(GITT)

2.定電位間欠滴定法(PITT)

3.サイクリックボルタンメトリー(CV)

4.電気化学インピーダンス分光法(EIS)

5.電位緩和法(PRT)


これらの中でも、GITT試験は抵抗性分極の影響を抑えられる点や、操作が比較的簡便である点など、明確な利点を有しています。そのため、本稿では、電池におけるイオン拡散係数を求める手法として、GITTの基本原理および測定ステップの構成について詳しくご紹介いたします。



2. GITT試験の原理と手法


2.1 原理


GITT(定電流間欠滴定法)は、過渡的な電気化学測定手法です。その基本原理は、一定の電流 ii を一定時間 τ にわたって電池に印加して充放電を行い、その後に電流を遮断するというものです。電流印加中(定電流ステップ)およびその後の緩和期間における電圧応答を記録し、この電圧データに基づいて電極反応に伴う分極挙動を解析することで、反応速度論的な情報を得ることができます。


GITT試験は、「電流パルス → 定電流ステップ → 緩和期間」というサイクルを交互に繰り返す構成となっています。なお、緩和期間とは、電池に電流が流れていない時間帯を指します。


GITTにおいては、電流強度 ii と緩和時間 τ が重要な実験パラメータとして挙げられます。


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図1 商用リチウムイオン電池のGITTプロファイル


図1は、商用リチウムイオン電池のGITTプロファイルを示しており、図2ではその一部領域を拡大表示しています。


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図2 GITTプロファイル領域の拡大図


2.2 GITT解析のための数理的定式化


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次式(式(2))において、D は拡散係数、i は印加電流、F はファラデー定数(96485 C/mol)、zA はイオンの電荷数、S は電極と電解質の接触面積、dE/dδ はクーロン滴定曲線の傾きを表します。「電位-時間プロファイル」とは、電位と時間の関係を関数として表したものです。解を簡略化するために、印加電流 i が十分に小さく、かつ緩和時間 τ が十分に短い場合には、電位-時間プロファイルは線形関係を示します。この前提に基づき、上記の式は以下のように簡略化されます(式(3))。


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この式において:


·τ:定電流パルスの印加時間(秒)

·mB:活物質の質量(g)

·VM:試料のモル体積(cm³/mol)

·MB:材料の分子量(g/mol)

·S:電極と電解質の界面接触面積(cm²)

·ΔEs:充放電過程における定常状態の電圧変化(V)

·ΔEt:緩和による平衡状態までの電圧変化(V)

·L:電極の厚さ(cm)



3. GITT試験のための実験装置


3.1 試験装置の概要


GITTの基本原理および計算手法に基づき、パラメータを最適化した測定とデータ解析を通じて、イオン拡散係数Dを算出することができます。本研究では、GITT測定に新威製マルチチャネル電池試験システム(図3参照)を使用しました。


5-白底

図3 新威製電池試験システム


新威マルチチャネル電池試験システムは、以下のような多様な動作モードを備えています:


1. 充電モード

·定電流(CC)充電

·定電圧(CV)充電

·CC-CV充電

·定電力(CP)充電

·終了条件:電圧、電流、相対時間、容量、エネルギー、-ΔV

2. 放電モード

·定電流(CC)放電

·定電圧(CV)放電
·CC-CV放電

·定電力(CP)放電

·定抵抗(CR)放電

·終了条件:電圧、電流、相対時間、容量、エネルギー

3. パルス試験
·充電パルス:CC / CP モード

·放電パルス:CC / CP モード

·最小パルス幅:500 ms

·パルスシーケンス:1ステップにつき最大32種類のパルスに対応

·シームレスな充放電遷移:1つのパルスステップ内での直接切替が可能

·終了条件:電圧、相対時間

4. DCインピーダンス(DCIR)試験

·DCIR算出用にユーザー定義のサンプリングポイントに対応

5. サイクルパラメータ

·サイクル範囲:1~65,535回

·1サイクルあたりのステップ数:最大254

6. ネストサイクル機能

·最大3階層の多層ネストサイクルに対応

(詳細仕様については、新威社のアプリケーションエンジニアにお問い合わせください。)


3.2 試験パラメータの設定


本研究では、バナジウム系正極材料を用いた水系亜鉛イオン電池を例に、GITT測定の手順を以下のように構成しています。


1.定電流で5分間の放電を行います。

2.その後、2時間の休止期間を設け、電池が平衡状態に達するのを待ちます。

3.このシーケンスを、あらかじめ設定されたカットオフ電圧に達するまで繰り返します。

※充電プロトコルも放電手順と同様に行う。


推奨事項:

1.GITT測定の前に2〜5回の事前サイクリングを実施することを推奨します。

2.電流密度は、レート性能試験で使用した中で最も低いレート(通常は0.05〜0.2C)またはそれ以下に設定するのが望ましいです。


図4 GITT測定プロトコルの模式図


図5 GITTデータ取得パラメータの設定


上記パラメータで構成された試験が完了すると、図6に示すような特徴的なGITT電圧プロファイルが得られます。


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図6 GITT電圧プロファイル


図6の放電段階の一部を拡大した代表的なプロットが図7に示されています。


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図7 GITTの部分拡大図


3.3 試験データの解析


新威製マルチチャネル電池試験システムによって取得されたGITTデータにアクセスし、インターフェース上で「D」の文字を選択すると、GITTデータ処理モジュールが起動します。



次に、GITTボタンをクリックして「材料パラメータ設定」インターフェースに入ります。

対象材料に基づいて計算した各パラメータを、指示された入力欄に記入し、「確定」をクリックすると、GITT処理後のデータグラフが生成されます。このグラフのデータをOriginソフトウェアにコピーすることで、対応する拡散係数グラフを描画することができます。




4. 応用シナリオ


イオン拡散係数は、電気化学的性能を研究し、電池の総合性能を向上させるうえで極めて重要な要素です。そのため、**定電流間欠滴定法(GITT)**は、電気化学分野、特に電池研究において広く応用されています。具体的な応用シナリオは、以下のとおりです。


1.電極材料の設計

イオン拡散係数を測定することで、さまざまな電極材料におけるイオン輸送特性を把握できます。これにより、イオンの移動速度が速い材料の設計や最適化が可能となり、電池の高出力密度や充放電レート特性の向上が期待されます。

2.電池性能の評価

拡散係数は、高レート充放電特性など、さまざまな動作条件下での電池性能評価に役立ちます。高い拡散係数は、高電流動作下での優れた性能を示す指標となります。

3.電池寿命の予測

拡散係数を測定することで、充放電サイクル中における材料の安定性を把握できます。これは、電池のサイクル寿命を予測し、劣化メカニズムを理解するうえで重要です。

4.電池の熱管理

イオン拡散過程は熱の発生を伴うことがあります。拡散係数を理解することで、熱暴走の回避や熱設計の最適化が可能となり、電池の安全性が向上します。

5.電池のモデリングおよびシミュレーション

電池の電気化学的シミュレーションにおいて、イオン拡散係数は不可欠なパラメータです。充放電挙動の再現や応答予測に役立ちます。

6.電池状態のモニタリング

充放電サイクル中に拡散係数の変化を追跡することで、電池の劣化状態(SOH)や性能低下をリアルタイムに評価できます。

7.新材料の開発

新しい電池材料の開発において、拡散係数の測定は性能評価やスクリーニングのための重要な指標となります。これにより、新材料の実用化が促進されます。

8.電池マネジメントシステム(BMS)

BMSでは、電池内部のイオン拡散状態に関する正確な情報が求められます。拡散係数に基づいた最適な充放電戦略の構築は、電池寿命の延長と使用効率の向上に繋がります。

9.電池のリサイクルおよび再利用

使用済み電池の拡散係数を測定することで、その残存価値の評価や再利用可能性の判断が可能になります。

10.電池の安全性研究

材料内部のイオン拡散メカニズムを理解することで、熱暴走や破損リスクなどの要因を特定し、より安全な電池システムの設計に貢献できます。


上記の応用事例から明らかなように、イオン拡散係数は電池性能の多面的な側面に影響を及ぼす鍵となるパラメータであり、電池技術の進歩において極めて重要な役割を果たしています。したがって、この重要な拡散係数を取得するために、GITT試験は不可欠です。



5. GITT手法のまとめ


GITT(定電流間欠滴定法)による拡散係数の測定手法には、次のような利点があります。


1.拡散係数を高い精度で測定することができます。

2.実際の動作条件を模擬することが可能です。

3.非破壊検査(NDT)として活用できます。

4.多様な電池システムに柔軟かつ包括的に対応することができます。


GITTは、電池材料中のイオン拡散挙動を理解するうえで非常に有用な情報を提供してくれますが、試験に時間がかかることや、使用する機器に高い性能が求められることなど、いくつかの課題も抱えています。そのため、研究を行う際には、これらの点を十分に考慮し、試験の妥当性と結果の正確性を確保することが重要です。


今後の展開について

本記事では、GITT試験の基本原理、パラメーター設定、およびデータ処理方法についてご紹介しました。次回以降の《電気化学試験シリーズ》では、Newareチームが以下のような電池材料や設計に関する専門的な試験手法を詳しく解説してまいります。

·レート性能試験

·エネルギー効率分析

·dQ/dV 曲線の解釈

·充放電曲線の診断

これらの応用編にもぜひご期待ください。今後とも、私たちの科学技術への取り組みにご関心をお寄せいただき、引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます。



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